「偽装請負」って知ってますか?
――労働者の権利を奪う「偽装請負」を止めさせよう!
近年、「偽装請負」が新聞でも取り上げられるなど社会問題となっています。10月4日、偽装請負を繰り返してきたとして大阪の人材派遣会社に業務停止命令が出されました。労働局も重い腰をあげて、ようやく取り締まりに乗りだしました。連合も9月19日に経済同友会に改善の申し入れを行なうなど「偽装請負」の是正に向けた取り組みを強化しています。では、問題となっている「偽装請負」とは、どういうことであり、私たち労働者にとって何が問題なのでしょうか。
1.「労働者派遣」と「業務請負」の違い
・労働者派遣
・業務請負
2.偽装請負とは?
・「偽装請負」または「違法派遣」
・個人請負型の偽装請負
・その他にも、自社で雇用していた労働者を個人事業主扱いにして請負契約に切り替えたり、自社労働者を請負業者に出向させ、請負契約を結ぶという悪質な事例もあります。
3.偽装請負の問題点
・「偽装請負」の一番の問題点――発注企業の使用者責任があいまいになり、派遣労働者の権利が著しく侵害されています。
「偽装請負」の場合には、実際には派遣労働者を指揮・監督し時間外労働を強いているにもかかわらず、発注企業は、労働時間管理に責任を負わなかったり、派遣労働者の有給休暇の取得に責任を負いません。そして、「偽装請負」によって働かされている労働者は、賃金が低い上に雇用が極めて不安定な状況におかれています。発注企業は、仕事の忙しさにより業務請負契約の打ち切りや契約料金の切り下げを簡単に行なうことができます。派遣会社は、それを派遣労働者にすべてしわ寄せしているのが現状です。また、ほとんどの場合は、社会保険にも未加入の状況におかれています。労働災害にあっても補償が受けられないという悲惨な事態が生み出されているのです。
・労働基準法の対象外におかれている個人請負
とりわけ、派遣労働者と派遣先企業が直接に業務請負契約を結んでいる場合には、当該の労働者は、個人事業主扱いされ、労働基準法の対象外に置かれてしまいます。「個人請負」型の労働者は、時間外割増賃金も支給されない、有給休暇も取得できない状況におかれています。
こうした違法な「偽装請負」が製造業を中心に横行しています。全国の労働局が2年ほど前から立ち入り調査を強化した結果、昨年度だけで請負を発注した660社のうち、半分以上の358社で偽装請負にからむ問題が発覚し、文書で改善指導されました。
4.なぜ偽装請負が拡大するのか
・派遣先企業の雇用責任の回避
労働者派遣法は、1999年、2003年に改定され、派遣業種が拡大され、派遣期間も延長されましたが、それでも以下のような労働者保護規定があります。
@派遣期間の限定 原則1年以内(派遣先従業員の代表からの意見聴取を条件に3年に延長)
但し、製造業への派遣は1年という期間限定
※派遣期間に限定が設けられているのは、派遣先企業で雇用されている正規労働者の代替を防止するためです。
A雇用申入れ義務
派遣受入れ期限を過ぎて派遣労働者を使用する場合には、労働者に雇用契約を申し入れなければならないという義務が派遣先企業に課せられました(2003年)。
※こうした規定は、労働者が長期間にわたって低賃金・不安定な派遣労働に従事することなく、派遣先企業に正規雇用されるよう促すためです。
こうした規定をすり抜けるために、「偽装請負」という違法行為が横行しているのです。
直接雇用労働者、派遣労働者、請負労働者の権利の違い |
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雇用契約の労働者の場合 |
派遣契約の労働者の場合 |
請負契約の場合 |
解雇・ 契約解除 |
合理的な理由がなければ解雇は出来ません。解雇予告制度があります。 |
派遣期間内に契約が解除された場合には、その期間の賃金を請求する権利があります。派遣期間を超えて働く場合は、派遣先企業に雇用契約申入れの義務が生まれます。 |
請負契約が突然、打ち切られても、何の保障もありません。 |
残業・ 休日出勤 |
会社が労働時間の管理に責任を負い、時間外労働、休日出勤の場合には、割増賃金が支払われます。 |
派遣先企業が労働時間管理に責任を負い、派遣会社から割増賃金を支払われます。 |
割増賃金は支払われません。 |
有給休暇 |
6ヶ月勤めていれば、有給休暇取得の権利が生じます。 |
派遣先が変わっても、同一の派遣会社に6ヶ月以上継続して在籍していれば、有給休暇の権利が生じます。 |
有給休暇の権利は得られません。 |
雇用保険・ 労災保険・ 社会保険 |
会社に雇用保険・労災保険・社会保険の加入が義務付けられています。 |
労災保険は、勤め始めた日から保障を受けることができます。雇用保険は、短期契約であっても、1年以上の継続が見込まれる場合は加入が義務付けられています。社会保険は、2ヶ月以上の契約の場合は義務付けられています。 |
各種保険を会社側が負担する義務はありません。 |
・「偽装請負」は、職業安定法・労働基準法・労働者派遣法に違反する行為
請負契約を結んでいても実質上、労働者派遣事業と同じことをしていると判断されれば、労働者派遣法違反であり、派遣会社に「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」(派遣法59条2号)が課せられます。また、職業安定法では、労働者派遣法に基づく労働者派遣以外の「労働者供給事業」を禁止しています。(44条)。したがって、適法な労働者派遣に該当しないものは、職業安定法違反であり、派遣会社と派遣先企業の両者に対して「1年以下の懲役または100円以下の罰金」(職安法64条1号)が課せられます。労働基準法においても、労働者供給事業によって中間マージンを得ることを禁止しています(6条)。
厚生労働省は、労働者派遣法違反で違法な「偽装請負」の摘発にのりだしています。しかし、労働者派遣法には派遣会社に対する罰則規定しかなく、派遣先企業は罪に問われていません。それゆえ、違法な「偽装請負」が横行するのです。
5.問題解決は、派遣労働者を派遣先企業が直接雇用すること
では、こうした「偽装請負」をなくすためには、どうすればいいのでしょうか。請負ではなく「労働者派遣」にすればよいか、というとそれほど簡単な問題ではありません。
・派遣労働者が増大していること自体が問題
派遣労働者は、企業に直接雇用されている労働者に比べて、極めて弱い立場に立たされています。派遣会社は、派遣労働者を常時雇っているわけではなく、登録制にしている場合が大多数です。派遣先から仕事が入った場合だけ、労働者と契約を結び、派遣先企業に派遣します。登録制の場合には、派遣先からの仕事がなくなるとそれ以降の賃金は保障されていません。
また、派遣先企業から派遣会社に支払われる契約料の中から、派遣会社が中間マージンを差し引いた分を労働者に支払っているからので、派遣労働者が受け取る賃金は極めて低く押さえ込まれています。
労働組合は、使用者責任をあいまいにする労働者派遣の拡大に対して反対してきました。しかし、自民党政府は、経営側の要請を受けて「規制緩和」の名の下に1999年、2003年に労働者派遣法を改定して、派遣業種を拡大し、派遣期間も延長しました。これにより派遣労働者の数は一挙に増大し、正規労働者との所得格差が拡大したのです。
したがって、「偽装請負」の場合は、派遣先企業の雇用責任を問題にして、派遣労働者を直接雇用させる必要が有ります。
・労働組合に個人加盟し、待遇改善を要求しよう!
業務請負契約で働かされている労働者の方は、「偽装請負」かどうかについて是非、ご相談ください。違法な「偽装請負」の場合には、派遣先企業に対して使用者責任を問うことができます。もちろん、ひとりで会社と交渉するのは困難です。労働組合に個人加盟することをお勧めします。10月18日、キャノンで働く人材派遣会社の請負労働者17名が、「偽装請負で働かされている」としてキャノンに対して正社員としての雇用を申し入れました。彼らは、個人で加盟できる労働組合に加盟し、正社員化を求めています。全国一般労働組合福井地方本部でも個人加盟を受け付けています。加盟していただければ、請負会社や派遣先企業との交渉の進め方について検討し、必要な場合には、組合事務局が直接交渉にあたります。
まずは、電話・メールでご相談ください。