<FARE>

ヘリコプター救急の未来(7)

 

航空医療の当面する課題

 航空医療サービスは近年、急成長を遂げており、その任務も拡大しつつある。同時に、サービスの運営と数の増加が注目を集め、そこからさまざまな課題が指摘されるようになった。

費用と費用効果

 航空機が緊急事態に対応するためには、複雑な体制を維持しなければならない。基本的には消防機関や病院の救命救急部門とよく似ており、出動に備えて常に待機を続けるには、多額の固定費がかかる。

 これは特に、地方の救急医療で問題となる。最近、アメリカの会計検査院(GAO)など政府機関が行なった調査では、今の医療保険給付額だけではサービスの維持を十分支えられないことが明らかになった。

 ヘリコプターや飛行機には購入費または借上費、運航費、格納費、整備費などに数百万ドルの経費がかかる。パイロットや医療スタッフも高度な訓練を受けた要員が毎日24時間、1日の休みもなく待機しなければならないので、そのための費用は決して少なくない。これらを統合した航空医療体制を運営してゆくにも、多数の機関と専門家が相互に関わりをもって連携しなければならない。

 しかもアメリカでは、こうした航空医療システムが公的資金で運営される例はほとんどない。したがってシステム運営のための費用は、最終的に患者搬送の1回ごとの料金に反映され、同じような任務に当たる救急車と比べると、かなり高いように見える。実際は、しかし、救急車は料金が安いからといって必ずしも費用効果が高いわけではないし、航空機は逆に、料金が高いから非現実的とみなすのは誤りである。

 1990年代なかば、管理医療が喧伝されたとき、航空医療サービスは医療費を引き上げる要因であると主張する説があった。航空機を使うと、救急事業はやがて破綻し、再編を余儀なくされるだろうというのである。しかし実際は、そのようなことにはならず、航空医療の価値が実証されるにつれて、保険金の給付額はむしろ改善され、医療制度の変更も反映してサービスが拡大した。

 ヘリコプターと地上救急車の経済性を比較した調査がある。この調査によると、対象地域面積と出動回数が同じと仮定した場合、航空医療システムと救急車システムへの資金投入額は、1991年現在のドル価で搬送患者1人あたり、航空システムが2,811ドル、地上システムが4,475ドルであった。

 またペンシルバニア州立大学のギアハートその他の医学者による外傷患者向けヘリコプター救急の費用効果に関する研究調査でも、ヘリコプターの費用効果はすぐれているという結論に達した。それまでのある調査では、500件の救急出動における救命年数当たりの経費が平均19,000ドル――具体例では心臓発作の場合の凝結塊分解処置が32,678ドル、腎臓透析が40,000ドルで、救命救急士による地上救急のコストは8,886ドルと推定していた。ところがギアハート論文では、ヘリコプターのコストが2,454ドルだったのである。

 もうひとつ、航空医療サービスは費用効果がすぐれているばかりではない。現今のように高齢化が進む社会では、医療から隔たった人びとに対し新たなサービスを提供できる手段として、ますます重要になってきたと考えるべきである。

航空機の適切な利用

 航空医療サービスは、患者をどこに入院させるか、患者をいかに医療施設まで搬送するか、途中でどのような治療を受けるかなどの決定に影響するため、同じ地域の病院その他の救急機関は、航空機による救急搬送が適切に行なわれているかどうかに強い関心をもっている。それも警戒心をもって見ていることが多い。

 しかし現場で病状を特定することは困難であり、病気によっては無症候性の場合もあるため、航空医療サービスが最大の効果を上げるには患者の「見落とし」(すなわちサービスが受けられない「アンダートリアージ」)が起きないよう、後で必要なかったと判明するような状況にも航空機を使う「オーバートリアージ」を避けることはできない。

 1990年アメリカ航空医療学会(AAMS:Association of Air Medical Services)は「航空医療サービスの適切な利用に関する方針文書」を発表し、出動要請の承認と事後検証のために、状況別と患者別の基準を定めた。

 この基準により、少なくとも4州で航空機の利用が適切だったかどうか調査が行なわれたが、基準に対してよく合致していることが明らかになった。そこで、ある州では調査結果にもとづいて、航空医療の適切とみなされる用途を拡大する方向へ基準を変更した。

 さらに最近、アメリカ救急医学会(NAEMSP:National Association of EMS Physicians)が2003年に方針文書を出し、これらのトリアージ基準を更新した。その「航空医療出動ガイドライン」はAAMSと航空医療医学会(AMPA:Air Medical Physicians Association)により承認された。AMPAはさらに、それとは別に航空医療サービス利用基準を発表した。

 これらのガイドラインは、航空機の出動基準を示すだけでなく、事後検証にも利用することができる。事前の出動承認と事後検証の制度は、航空医療の事業単位ごとに不可欠の要素である。さらに複数の航空医療事業が存在する場合は、地域ごとか州レベルで出動の結果に関する検証行なうことが望ましい。

 こうした出動基準のほかに、救急システムの設計に適用できる手段がさらに2種類存在する。ひとつはヘリコプター救急システムの利用予測である。一定地域のヘリコプター救急出動を予測し、実際の出動結果と比較することにより、システム設計者はいっそう具体的で正確な実態を把握することができる。(つづく

(HEM-Net、2007.2.26)

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