<FARE>

ヘリコプター救急の未来(6)

 

航空医療の新たな任務

一般的な任務

 救急ヘリコプターといえば、交通事故の現場に着陸し、大けがをした多発外傷患者を救出する場面を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、この10年来、航空医療サービスは多種多様な新しい任務を引き受けるようになった。したがってアメリカでは、ヘリコプターの現場出動は今や33%にすぎず、54%が病院間搬送、13%がそれ以外の任務――たとえば移植臓器の搬送、新生児や小児科医療チームの派遣輸送などである。

 現場出動はほとんどが負傷者への対応だが、病院間搬送は外科処置が必要な心臓発作や脳卒中(カテーテル挿入などの侵襲的心臓処置を含む)、長期間の集中治療を必要とする急性呼吸不全、脊髄の損傷、熱傷、小児・新生児疾患の合併症、四肢の再接着、臓器移植、ハイリスク妊婦の合併症など、重篤な患者のためにおこなうことが多い。これら施設間搬送の任務は、患者の転帰を改善することも明らかになっている。

心疾患治療と心臓発作

 心臓発作は、心臓内の動脈が凝血塊で閉塞し、その動脈から血液の供給を受ける心筋が酸素不足に陥ったときに起きる。その結果、胸痛が起き、心筋壊死の危険性を生じる。このような閉塞は迅速な処置をしないと、心臓に永続的な損傷を与え、死に至るか、死なないまでも後遺症が残って生活の質の低下につながる。

 重症の外傷と同じく、患者の死や障害に至る前に、心臓の治療が効果を発揮する時間枠は、一般に症状が現れてから2時間以内と考えられている。弱った心臓は、この時間内に停止するか障害を起こすおそれがあり、そのときは直ちに救急処置をしなければならない。病院外ではヘリコプター救急の二次救命処置が、こうした緊急事態に効果的に対処できる。

 最終的には凝血塊を分解し、血液とそれによって運ばれる酸素が影響を受けた筋肉に戻るようにするため、特殊な薬品か、心臓医療を専門とする病院で外科的処置をしなければならない。このような適切な治療を、症状の出現から2時間以内に行なえば、心臓への障害が軽く、患者は生き延びるだけでなく正常な生活を取り戻せることにもなる。

 心臓治療センターは近年、外傷センターと同様に整備が進み、いっそう効果的な外科処置ができるようになった。とはいえ都市部を除く地方では、心臓治療センターが少ないため、都市部のセンターまで心停止の患者や再始動させた患者を迅速に搬送しなければならない。その意味でヘリコプター救急は、ますます重要な役割を担うことになる。

脳卒中と脳発作

 心臓発作と同じく、脳卒中は主に凝血塊によって血行が阻害されることが原因で起こる。ただし、こちらは脳の中である。これにも時間枠があって、理想的には90分以内、一般には3時間以内に凝血塊の分解処置をすれば、患者は全く、あるいはほとんど、長期的な障害に苦しまずにすむ。このため、脳卒中の凝血塊分解処置ができる専門センターへの患者搬送には、地上搬送と航空搬送を組み合わせた迅速な搬送システムが必要となる。

妊娠合併症

 妊婦が合併症を引き起こした場合、母体と胎児の両方の命が危険にさらされる。このときも専門的な治療が必要になることが多い。そのための大病院への搬送は、救命救急車を使うのもいいが、一刻を争う場合や遠隔地では明らかに航空医療サービスが安全で費用効果が高く、有益な方法である。さらに専門の医療チームを患者のもとへ送りこむときも、航空機は最短時間で飛べるので、地上搬送では達成できない手段となる。

小児患者

 子どもは病気になっても元気がよく、重篤あるいは重傷の兆候を見せないまま、急に病状が悪化したり瀕死の状態におちいったりすることが多い。そのようなときは、新生児または小児専門の集中治療設備を利用する必要があるが、施設の数は減少している。このため、新生児、早産児、幼児の治療にも、航空医療サービスは重要な役割を果たす。しかも迅速な搬送だけでなく、機内の航空医療スタッフにより搬送途中でも高度な治療を施すことができる。

複雑な外科・内科疾患

 以上のほかにも、航空医療は時間が重要な意味を持つさまざまな疾患に必要とされる。たとえば大動脈瘤、薬物の中毒または過剰摂取、臓器移植のための患者と臓器の搬送、人工呼吸器の補助を必要とする呼吸合併症、緊急透析の必要性、高圧室内での治療が必要な一酸化炭素中毒、ダイビング事故などがある。

集団災害と国の準備態勢

 ヘリコプターと飛行機は、広い地域にまたがって、患者を迅速に専門病院へ搬送することができる。そのため、緊急事態に対する備えという意味で不可欠の役割を果たす。とりわけ鉄道事故や多数の車が巻き込まれた交通事故、さらには地震や台風などによって集団外傷が発生すると、現地の病院は患者の数が対応可能な限界を超えたり、長時間の停電、断水、医薬品の不足によって機能しなくなったりする。状況によっては、病院そのものが避難しなければならないことさえある。

 このような現地医療施設の負担を軽減するために、軽傷患者を遠くの病院に地上搬送することは一般的に行われているが、救急専用のヘリコプターと飛行機は重篤または重傷の患者を、さらに遠くの病院に搬送することができる。

 ハリケーンその他の災害に襲われた地域では、病院の避難にヘリコプターを利用することとなる。道路が渋滞したり洪水で通行不能になった場合も、ヘリコプターでなければ医療スタッフ、医療器具、血液、血液製剤、医薬品などを現地に運ぶことはできない。こうした状況の下では、ヘリコプターを初め、飛行機や救急車も連携して患者や必需品をさらに遠くまで搬送することになる。

 防災計画は国、地方、地域の各レベルで策定されるが、そうした緊急対応計画にヘリコプターや飛行機を組み込んでおけば、自然災害と人為災害のいずれに対しても、迅速に航空支援態勢を取ることができる。今日アメリカの航空医療事業は民間企業によって運営されているので、航空機の利用は納税者に負担をかけずに国の緊急対応能力を補強することにもなる。(つづく

(HEM-Net、2007.2.22)

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