航空医療の基本的な任務
完全な救急体制の実現 「ゴールデン・アワー」という理念は、患者が1時間以内に医師のもとに到着することが如何に重要であるかを意味する。その実現のためには救急体制をしっかりと組上げ、高度の救急治療を提供できるようにしなければならない。たとえば、航空医療隊員は、一次救命処置よりも二次救命処置、二次救命処置よりも医師レベルの治療ができるようでなければならない。
そこで、外傷に対する救急体制を完全なものにするには、以下の事項を実現する必要がある。
- 負傷者の迅速な発見
- 救急機関への迅速な通報
- 迅速な一次救命処置
- 航空機への迅速な出動指示
- 迅速な二次救命処置
- 救急ヘリコプターまたは最寄りの救急部による迅速な医師レベルの救命処置
- 指定された外傷センターへの迅速な搬送
- 迅速な病院間搬送――特殊な治療が必要なとき。患者の症状または容態に応じて救急車、ヘリコプター、飛行機のいずれかを使用する。
- すぐれた救急計画と調整
- 航空機と救急車を組み合わせた対応に関する事後検証
これらの要素をうまく組織化している実例はメリーランド州の救急体制で、他の地域もそれにならうのが望ましい。すなわち外傷センターを備えた組織的な外傷治療システムが必要であり、そうした体制が命を救うことは十分実証されている。
ヘリコプターを使った救急出動が地上手段にくらべて死亡率が低いという救命効果の分析は、1980年代初期から始まり、最近までにほぼ実証された。
そうした研究論文は1980年代以降、数多く発表され、ほとんどの論文がヘリコプターを使えば死亡率が下がり、社会復帰率が向上すると結論づけている。
ヘリコプター救急は、現場から手術室までの時間を大幅に短縮する。地上の救急車と同時に救急ヘリコプターを出動させるならば、米国民の54%以上が60分以内に外傷センターに到着することができる。ヘリコプターなしでは、この時間短縮は不可能である。
また、初めからヘリコプターを使えば、患者がいったん小規模な診療所などに送りこまれ、そこで時間を無駄にするようなことが少なくなる。たとえ最終的にヘリコプターを使うにしても、途中でそうした病院を経由することは、外傷患者に悪影響を与えることが明らかになっている。
将来は、携帯電話の技術と車の自動衝突通報装置(ACN:Automatic Crash Notification)の技術が改善され、衝突事故の発生から覚知に要する時間がほとんどゼロになるであろう。この技術は、衝突した車から自動的に発信される信号によって、衝突による負傷の程度が分かる仕組みになっており、如何に遠隔地であろうと事故発生から数分でヘリコプターが出動することができる。したがって、けが人への救急対応は大きく改善されることとなる。
ヘリコプターの救命効果 ヘリコプターの救命効果について、最近の調査例から、次のことが実証された。
- ある地域のヘリコプター救急を廃止したところ、その地域の重傷者の死亡率は4倍に上昇した。
- ボストンの複数の施設で約16,000人の患者について調査したところ、死亡率はヘリコプター救急によって24%低下した。
- 都市部の負傷者でさえ、症例の23%の患者がヘリコプター搬送の恩恵を経験していた。
外傷性脳損傷(TBI)は、多発外傷と同時に起こることが多く、小児ならびに最も生産性の高い成人の死亡原因、および身体障害となる原因の第1位である。外傷性脳損傷は、処置までの時間が決定的な要因となる。都市以外では、外傷性脳損傷の処置に必要な脳外科施設の存在が低いので、救急治療にとっては大きな問題である。
しかし最近は、航空医療隊員による早期の治療と、脳外科医による最終的な治療を受けるための航空搬送により、この問題を克服することができるようになった。そのため中程度から重度の外傷性脳損傷を受けた患者では、大幅な改善が実現している。
ヘリコプター救急は一般に、次のような状況での外傷治療に有効である。
- 辺鄙な場所にいる患者――たとえばハイキング中の負傷、スノーモービル事故、ボートでの事故、もしくは衝突した車の中に閉じ込められた患者。このような場合は、救急隊員の到着や救出までにかなりの時間を要するので、外傷センターまで救急車で搬送していたのでは間に合わない。
- 外傷センターまでの距離が30〜40キロを超えるような場合。
- 患者の容態が二次救命処置の医療と安定化を必要としているのに、二次救命処置の可能な救急車が短時間のうちに利用できない場合。
- 道路が混雑していたり、病院が遠かったりして、救急車では短時間のうちに外傷センターまで患者を運べそうもない場合。
- 多数の患者が発生したため、近くの外傷センターだけでは受け入れられない場合。
- 今の救急制度では、初期診断と治療のために最寄りの病院に患者を運ぶことになっていて、それらの施設を迂回し、外傷センターに直接運ぶことができない。そのため最終的な外科治療に遅れが生じ、重大な影響を患者に及ぼす可能性がある。そのような場合も、ヘリコプター搬送が必要になる。
- 大事故によって多数の人びとを巻き込む集団外傷が発生した場合。
へき地医療に重要な役割 山間へき地と辺境地域では、ヘリコプターと飛行機が特に重要な役割を果たす。
- 負傷現場から見て、最も近くにある救急車が最も近いヘリコプター救急拠点よりも遠い場合、その地域の重篤患者と負傷者にとって航空医療サービスは第一の救急手段となる。
- 負傷現場から見て、最も近い二次救命施設が、救急ヘリコプターや飛行機の拠点よりも遠い場合、その地域の重篤患者と負傷者にとって、航空医療サービスは第一の二次救命手段となる。
- 輸血またはその他の医薬品や医療器具が入手できず、患者の治療を危うくする場合、航空医療サービスはそれらの資材を患者のいる病院に届けることができる。
- 集団外傷が発生した地域へ専門医療スタッフ(外科、救急科、呼吸治療、小児科、新生児科、産科、専門看護師)が救援に行く場合、または特別な治療が必要な患者の搬送前安定化のためにへき地や辺境地域の病院へ行く場合、これらのスタッフは救急用の航空機を利用できる。(つづく)
昨秋フェニックスで見たPHI救急機EC135
(HEM-Net、2007.2.21)