<FARE>

ヘリコプター救急の未来

 

は じ め に

空飛ぶ集中治療室

 航空医療サービス(AMS:Air Medical Services)は今や、医療制度にとって不可欠の要素となった。救命救急手段として航空機を適切に使うことにより、患者の命を救い、医療費を節約することができるからである。

 航空機は、地上の救急手段では不可能な医療処置をいち早く患者にほどこし、重傷者や急病人を迅速に病院へ送りこむことができる。すなわち医療専用のヘリコプターや飛行機(固定翼機)は、瀕死の患者のもとへ即座に派遣される「空飛ぶ集中治療室」にほかならない。

 航空機にかかる経費は、地上の救急車と比較すると高額に見えるかもしれない。しかしシステム全体を見わたし、経費の割に得られる利点を考えるならば、すぐれた費用効果を発揮することが理解できよう。

 一方で、交通事故の現場にヘリコプターを飛ばすのは、救命効果は高くても二次災害を惹き起こす危険もあるように見える。しかし実際には、航空機を利用することの危険度は、患者の入院中の危険度よりも低いのである。

 医療における手遅れは、死亡もしくは後遺症を意味する。逆に適切で迅速な治療ができるならば、たとえ重傷、心臓発作、脳卒中、あるいは内科と外科の合併症など、一刻を争う危険な状態におちいった人でも回復が可能である。言い換えれば、航空医療は空間と時間の橋渡しをする手段である。とりわけ最近は、医療技術が進歩し、時間が重大な意味を持つようになったことから、航空機もまた重要性を持つようになった。

不可欠な要素

 そのうえ近年、医療コストが上ったため、山間へき地では日常的な保健医療さえ利用できなくなってきた。したがって今日、航空医療はますます重要な役割を担うに至った。

 最近はテロの不安も大きい。テロは交通事故と異なり、被害の範囲も人数も桁違いに大きな災害をもたらす。そんなとき航空機は長距離を飛んで、医療スタッフ、医療器具、医薬品を送りこむと共に、被害現場から患者を運び出すことができる。したがって航空医療は防災計画や危機管理に不可欠の要素として組み込まれなければならない。

 カトリーナやリタなど、最近のハリケーンでは多数のヘリコプターや飛行機がメキシコ湾沿岸へ派遣された。これらの航空機は災害対策要員を現場に送りこみ、重病人や負傷者を現地の病院や養老院から避難させるなど、めざましい働きを見せた。その働きがなければ、さらに数千の人命が危険にさらされたり、失われたりしたであろう。

 航空機は、現代の救急医療体制における不可欠の要素である。今や多くの病院、外傷センター、救急部、専門医が財務的な問題、医療保険問題、法規の変更、競争などの要因により、サービスの削減、閉鎖、変更、統合を余儀なくされている。こうした状況からも、患者を専門医療施設に搬送するための航空機の利用が、とりわけ遠隔地では増加しつつある。

 これまでは救急体制も航空医療も、その開発と導入のための計画や設計が不足していた。そのためアメリカ各州の救急規則、医療規則、資格取得基準、連邦航空規則などの間で互いに矛盾が生じ、航空医療を提供する事業者にとって一貫性のない大きな障害となっている。

 そこで本書は、航空医療の歴史と現状を解説し、質の高い航空医療サービスを国民へ提供する責務を負う政策担当者ならびに立法機関向けに、航空医療の概念を示すものである。(つづく


テネシー州ナッシュビルのヴァンダービルト大学ライフ・フライト機。
衛星拠点のひとつ、ゲイトウェイ医療センターの入り口近く、
道路に面した駐車場の一角で何気なく待機している。
機種はユーロコプターEC-145双発タービン・ヘリコプター。

(HEM-Net、2007.2.13)

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