<ドクターヘリ・デイズ(3)>

2機で「15分以内」確立

 

 「2機目のドクターヘリを木更津市の君津中央病院に配置します」

 8月26日、懸案だったドクターヘリの千葉県南部への展開について、堂本暁子知事が県庁で会見した。

 ドクターヘリ2機運用は、全国の都道府県で静岡県に次いで2番目。早ければ年内に運航が始まる。

 印旛村の日医大千葉北総病院を基地とするドクターヘリは、県内で一番遠い館山市まで30分かかる。

 欧米のドクターヘリの配備についての考え方は、出動から15分以内(約50キロ圏内)の現場到着を目指す「15分ルール」が主流。医学的には大量出血の患者でもほぼ100%救命できる時間だ。

 2機目導入で房総半島南端でも収容までの時間が短縮されると期待され、県内のほとんどの場所に15分以内でヘリが到達できることになる。

 80年代、ドイツでは全土に「15分ルール」を適用してヘリを展開した。これにより交通事故死者を3分の1に減らすことに成功した。2機目導入に県内の救急関係者の期待は大きい。

 今年度、県は1機目の運営費1億7000万円に加えて、2機目分1億1000万円を上乗せした予算を組んだ。基地として名乗りを上げたのは君津中央と鴨川市の亀田総合病院。県ドクターヘリ運営事業実施病院選定委員会では、両病院がプレゼンテーションを繰り広げた。

 4回にわたった会議では、亀田総合病院は周産期治療に実績があることが評価された。君津中央病院を基地とした場合、南部に加え人口が多い千葉市や東葛地区も「15分ルール」でカバーできることから、これが基地選定の決め手となった。

 2機運用で、千葉県では「15分ルール」による欧米並みのドクターヘリ運用が実現するが、関係者の多くは、今、その先行きに不安を覚えている。

 最大の課題は費用だ。現在、日本のドクターヘリは利用者である患者負担はゼロで、運営費は税金で賄われている。ヘリ1機当たりの運営費年間1億7000万円は厚生労働省が定めた額。内訳は、病院の「医師人件費」など約2000万円、契約している運航会社に「運航委託費」として約1億5000万円。

 「医師人件費」は千葉北総ではフライトドクターだけでも12人で、手当の一部が出る程度。一方、運航委託費の算定基礎となっているのは「年間240回の飛行」。昨年度、同病院のヘリは686回出動しており、446回もオーバーしている計算だ。年間予算は定額のため、オーバー分の費用は運航会社負担。つまり、「飛べば飛ぶほど赤字になる」という構造だ。

 運航費の赤字額は、「運航会社の営業上の秘密」などを理由に正式には公表されていないが、「年間7000万〜8000万円程度」(関係者)といわれる。

 ドクターヘリの運航費の中で大きな比率を占めるのはヘリの減価償却費。千葉北総病院のヘリは米国製のMD902型機。救急専用仕様で、価格は約7億円という。機体寿命は短く、償却期間は8年程度で、年間約8000万円の償却費を計上する。

 一方、運航スタッフを派遣するなどの人件費は約4000万円。これだけで約1億2000万円となる。これに交換部品代や燃料費などの実際の運航費用、無線設備などを運用するための経費が加わる。

 ヘリの部品は高価で、例えばメーンローターのブレード(羽根)が破損して交換すると、1枚で約1000万円。安全のために、一定の飛行回数や飛行時間で交換しなければならない部品も多く「1個100万円以上することは普通」(整備関係者)という。最近の原油高で燃料費も跳ね上がり、経費を圧迫する要因となっている。

 千葉北総病院のヘリ運営費は国50%、県50%の負担だが、新しく入る君津中央のヘリ運営費は全額県が負担する。県医療整備課は「2機目も国に対しても1機目同様の『半額補助』を要望しているが、他県ではヘリが入っていないところも多数あり、補助の実現は厳しい情勢」と話している。

 運営費自体の増額について、全国のドクターヘリ関係者も要望書などを厚労省に送っているが、「財源不足」を理由に解決のめどは立っていない。

 「このままだとドクターヘリのシステム自体が経済的に崩壊する可能性もある」。外科医でもある千葉北総病院の院長、田中宣威(66)は語気を強める。=敬称略(黒川将光、毎日新聞2008年9月30日付)

 

(HEM-Net、2008.10.2)

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