<ドクターヘリ>

初期治療の切り札

 

空飛ぶ救急センター

 ドクターヘリとは、医師や看護師を乗せて30分以内に事故や災害の現場に駆けつけ、救命措置を施Lながら患者を病院へ運ぶヘリコプター。救命救急センターを持つ医療機関から直接飛ぴ立つ点や、比較的小型で現揚に降りやすい点で、白治体の消防や防災用のヘリコプターとは区別される。海外では欧州を中心に普及が進んでいる。

 札幌市から東南東に約70キロ離れた北海道穂別町の山中で、昨年10月4日朝、2人の男性がヒグマに襲われた。1人はツメで顔をえぐられて出血し、肉の一部を失っていた。町の診療所の医師は、すぐに消防署にドクターヘリの出動を要請した。

 札幌市北西部の手稲渓仁会病院で常時待機するヘリは、当番の医師らを乗せ、連絡を受けて約3分で出動。約25分で到着した。とって返したへリは患者を北海道大学病院(札幌市北区)へ運び込んだ。男性はその後、回復に向かっているという。

 穂別町の診療所によると、これまでは救急車で約1時問かけて、最寄りの総合病院がある苫小牧市に運んでいた。

 手稲渓仁会病院の高橋功・救命救急センター長は「外傷は最初の1時間の処置が勝負と言われる。ドクターヘリは、救急の医療器具を備え、医師と看護師が現場や飛行中でも応急措置できるのが強みだ」と話す。

 駆けつける現場はさまざまだ。重機に両足を挟まれた負傷者を、消防の救急作業のわきで点滴を打ったり、酸素吸入をしたり。呼吸困難に陥った患者ののどを切開して気道を確保し、胸を切開して血のかたまりを取り出したこともあった。 

 昨年4月の導入から年末までの出動は162件。うち6割の98件が交通事故や災害現扱への出勤で、病院間の搬送が64件。病気では脳卒中や急性心筋梗塞が多かった。

 昨年度669件と全国でもっとも多く出勤したのは日本医大付属千葉北総病院(千葉県印旛村)だ。2001年10月から本格的に運航を始め、昨年末までの4年3ヵ月の累計では2,327件に達する。

 病院は千葉県の北部に位置し、県内全域に加え茨城県南部までカバーする。事故や急病の現場への出勤が9割近い。運航時間は日没の30分前までにしており、日が長い夏場は特に効果的という。

導入費が普及の足かせ

 ドクターヘリの本格運航は2001年4月、川崎医科大学付属病院(岡山県倉敷市)で始まった。現在、1道8県で計10機に広がった。

 運航にかかる費用は1機あたり年間約2億円。厚生労働省や道県から1億数千万円の補助が出るが、今年度は「始まったばかりの北海道と長野までで打ち切り」(厚労省)。他の都府県に普及するには時聞かかかりそうだ。

「空飛ぶ救命救急センター」が飛べるのは片道約30分、半径100キロ圈に限られる。

 静岡県だけは、聖隷三方原病院(浜松市)と順天堂大学医学部付属静岡病院(伊豆の国市)の2ヵ所で運航。ほかの7県も1機でほば全域をカバーできるが、北海道は広すぎる。

 NPO法人「救急ヘリ病院ネットワーク」(HEM−Net)は、道内全域に30分以内で駆けつけるには各地に6機は必要だとみる。警察庁長官をつとめた国松孝次理事長は「医師や医療施設の整っていない北海道こそ必要なのに、なぜ札幌の病院だけなのか」と話す。

 運航は高度な救命医療ができる病院に限られる。北海道で資格があるのは、札幌、旭川、函館、帯広、室蘭、北見、釧路の計10病院。道庁の導入の打診に手を挙げたのは、渓仁会以外は室蘭市の日鋼記念病院だけだ。

 医師や看護師の養成に加え、ヘリポートの整備など費用がかかる問題も多く、手を挙げた同病院でさえ「国や道の補助金が出るのを待っている」(運営医療法人の林茂・経営管理部長)状態だ。道庁は「次に補助が出るのは数年後」と説明、道内2機目のめどは立っていない。

「人の命にかかわることだ。金がないからできないというのはおかしい」と国松理事長。HEM−Netは、運航費用を医療保険給付の対象に加えて、負担を分散することを提言している。(岩本哲生、『朝日新聞』、2006年1月19日付)

ドクターヘリの運航拠点と開始期日

医療機関

所在地

運航開始日

川崎医科大学附属病院

岡山県倉敷市

2001年4月1日

聖隷三方原病院救命救急センター

静岡県浜松市

2001年10月1日

日本医科大学千葉北総病院

千葉県印旛郡

2001年10月1日

愛知医科大学附属病院

愛知県長久手町

2002年1月1日

久留米大学高度救急救命センター

福岡県久留米市

2002年2月1日

東海大学医学部高度救急救命センター

神奈川県伊勢原市

2002年7月1日

和歌山県立医科大学付属病院

和歌山県和歌山市

2003年1月1日

順天堂大学付属静岡病院

静岡県伊豆の国市長岡

2004年3月1日

手稲渓仁会病院

北海道札幌市

2005年4月1日

佐久総合病院

長野県佐久市

2005年7月1日

長崎医療センター

長崎県大村市

2006年度開始見込み

(HEM-Net、2006.1.20)

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