第3章 全国の農山村に見る医療過疎の問題とヘリコプター <承前>
2 岡山県におけるドクターヘリの効果 岡山県倉敷市の川崎医科大学附属病院は2001年4月1日、わが国で最も早くドクターヘリを導入した高度救命救急センターである。同病院では、この本格的な事業開始に先だって、1999年10月から試行的事業をはじめた。
その試行期間を合わせて、川崎医科大学のドクターヘリは2003年4月までの3年半の間に総計931件の救急出動をしたが、そのうち607例が農山村の医療過疎地からの出動要請であった。これは全体の65%に当たり、初期治療開始までの時間の短縮、搬送時間の短縮、早期治療と搬送中の治療継続、要請医療機関・地元消防機関の負担の軽減等からも、ヘリコプターがきわめて有用であることが明らかとなった。
ここでいう農山村の医療過疎地とは、半径50km圏内に高度の治療が可能な3次医療施設が存在せず、2次医療圏内での治療の完結も困難な地域をいう。具体的には、岡山県内の津山、阿新、真庭、高梁、井原、福山、その他の地区で、川崎医科大学から見た直線距離では、いずれも30〜70km程度の距離にある。
これらの地域から施設のととのった救命救急センターまで、患者を救急車に乗せて搬送すれば、1時間前後を要するものと推定される。医師による治療はそこから始まるわけで、救急医療の15〜30分以内に治療に着手するのが望ましいという原則からすれば、手遅れになることも考えられる。
こうしたことから川崎医科大学では、実際にドクターヘリが出動した497例について、医療着手までの時間と、救急車による搬送を仮定した場合の推定時間を比較検討した。その結果は表3-2のとおりである。
表3−2 治療着手までの時間 [資料]川崎医科大学、2003年
地域名 出動件数 平均所要時間(ドクターヘリ) 推定地上時間(救急車) 津山
125 17分 100分 阿新
117 16分 70分 真庭
95 15分 60分 高梁
82 10分 40分 井原
47 10分 35分 福山
31 14分 50分 合計/平均 497 14.4分 66.1分 この表によると、ドクターヘリによる治療着手までの時間は、津山、阿新など直線で50kmを越える地域では平均16〜17分となって、15分を超えた。ちなみにドイツやスイスでは、国土の全域で15分以内に救急治療が開始できるようヘリコプターを配備している。岡山県の農山村も、ドクターヘリの配備によって平均では14.4分で救急医療が着手できるようになった。
もし、ここでヘリコプターが利用できなければ、初期治療着手までの時間はどうなっただろうか。川崎医科大学では上表右欄のように、遠いところで100分後、平均66.1分、すなわち1時間を超えたであろうと推定している。
その結果、死亡と軽快の人数にどのような差が出たか。おそらくは、前章のドクターヘリ試行の結果に照らしても、4割前後の「避けられた死」(preventable death)が生じたであろうことは想像に難くない。言い換えれば、死者の数は実際よりも1.8倍程度にまで増えたと推定されるのである。
【参考文献】
- 熊田恵介、小濱啓次ほか(川崎医科大学救急医学)「過疎地域におけるドクターヘリ搬送例の問題点」、2003年11月1日
(HEM-Net、2004.9.29)