第2章 ヘリコプターの利用効果 前章で見たように、救急患者の救命効果を高めるためには、一刻も早く初期治療に着手する必要がある。そのためには医師、もしくは医療的処置のできる有資格者が救急現場に急行しなければならない。しかし農山村の医療過疎といわれる地域の現状は、救急体制も医療設備も決して充分とはいえる状態にない。
この問題を解決するには、どうすればよいか。仮に高度の医療設備をととのえ、多数の専門医を集め、救急搬送体制を整備するには膨大な費用と時間がかかることになる。それに対して、比較的容易に手っ取り早くできるのがヘリコプターの導入である。
ヘリコプターは、医療施設から遠い農山村地域においても、級病人や怪我人のもとへ迅速に医師を連れて行ったり、高度医療機関へ素早く患者を搬送することができる。ヘリコプターこそは、医療過疎の地域にあっては不可欠の手段であるといってよいであろう。
では具体的に、救急救助に応じられるヘリコプターは、日本にどのくらい存在し、どのように使われているのだろうか。またヘリコプター利用の結果、どのような効果が挙がっているのだろうか。そして、いっそうの効果をあげるために如何なる課題があるのだろうか。
1 消防機関のヘリコプター 消防機関の保有するヘリコプターは現在、全国で68機である。内訳は表2-1に示すとおり、東京消防庁の保有する6機、政令市の保有する消防ヘリコプター21機、道府県の保有する防災ヘリコプター41機である。
実質的には、消防機も防災機も変わりがないが、保有する自治体のレベルによって、便宜的に呼称を変えている。全てを総合する場合は「消防・防災ヘリコプター」と呼ぶ。
このような消防機関へのヘリコプター配備は1967年、東京消防庁から始まった。本格化するのは1989年3月の消防審議会による「消防におけるヘリコフターの活用とその整備のあり方に関する答申」が出てからだが、1995年の阪神大震災で加速され、現在に至っている。
この消防審議会の答申は、救急業務にヘリコプターを活用するために「西ドイツ、スイス等救急ヘリコプター先進諸国の例(出動要請から12〜15分以内に救急患者に対して救急処置を開始することを目標として、全国土をカバーする体制となっている)、ヘリコプターの巡航速度(200〜250km/h)等を勘案して、半径50〜70km(ヘリコプター基地から救急現場におおむね15分前後で到達可能な距離)とするのが適当である」とし、「消防ヘリコプターは、各都道府県の区域に少なくとも1機以上配置されることを基本とし、21世紀初頭には、我が国全土にわたってこのような配置が整い、各地域において消防活動に積極的に活用される体制が確立されることを目標とすべきである」と述べている。
こうして消防・防災ヘリコプターの全国配置が進められ、今日に至った。現在、消防・防災ヘリコプターのないところは、宮崎、佐賀、沖縄の3県だけとなった。ただし宮崎県は2004年度から導入の予定である。
表2-1 消防・防災ヘリコプターの配備状況
区分(合計機数) 自治体(保有機数) 消防ヘリコプター(27)
札幌市(1)、仙台市(1)、千葉市(2)東京都(6)、川崎市(2)、横浜市(2)、名古屋市(2)、京都市(2)、大阪市(2)、神戸市(2)、岡山市(1)、広島市(1)、北九州市(1)、福岡市(2)
防災ヘリコプター(41)
北海道(2)、青森県(1)、岩手県(1)、宮城県(1)、秋田県(1)、山形県(1)、福島県(1)、茨城県(1)、栃木県(1)、 群馬県(1)、埼玉県(2)、新潟県(1)、富山県(1)、石川県(1)、福井県(1)、山梨県(1)、長野県(1)、岐阜県(2)、静岡県(2)、愛知県(1)、三重県(1)、滋賀県(1)、兵庫県(1)、奈良県(1)、和歌山県(1)、鳥取県(1)、島根県(1)、広島県(1)、山口県(1)、徳島県(1)、香川県(1)、愛媛県(1)、高知県(1)、長崎県(1)、大分県(1)、熊本県(1)、鹿児島県(1)
未配備県
佐賀、宮崎、沖縄
2 消防・防災ヘリコプターの出動実績 前項のような消防・防災ヘリコプターの出動実績は表2-2のとおりである。2002年の実績は総数4,781件であった。1機平均70件である。
出動の対象は火災、救助、救急、その他に分けてある。が、消防審議会の答申は「各種の消防活動に幅広く活用していく」こととして、「特定の消防活動に限定することなく」、消火、人命救助、災害時の情報収集、応急資機材・救援物資の緊急輸送、災害予防、救急業務(離島、山村、へき地等からの救急患者の搬送)等の業務を上げている。
したがって消防・防災ヘリコプターは、救急だけが任務というわけではない。けれども1998年、「消防法施行令」の一部がヘリコプターによる救急業務の推進を図ることを目的として改正され、第44条(救急隊の編成及び装備の基準) の規定が「救急隊は、救急自動車1台及び救急隊員3人以上をもつて、又は回転翼航空機1機及び救急隊員2人以上をもつて編成しなければならない」と改められた。
すなわち救急隊の編成に「回転翼航空機」を加えることにより、これまで救急車だけでおこなってきた救急業務にヘリコプターも正式手段として使用することになった。これで、消防・防災ヘリコプターの任務として救急がきわめて重要な業務であることが明確になった。
表2-2 消防・防災ヘリコプターの災害出動実績 [資料]総務省消防庁
年 度 火 災 救 助 救 急 その他 合 計 1996 847 379 428 289 1,943 1997 808 463 556 291 2,118 1998 730 699 760 224 2,413 1999 839 931 975 192 2,937 2000 976 1,051 1,446 501 3,974 2001 1,201 1,196 1,668 271 4,336 2002 1,191 1,305 2,068 217 4,781 2003 787 1,379 2,065 342 4,573
そこで改めて表2-2を見ると、確かに救急出動は最も多い。かつては、この表に見られるように、火災出動が多かった。しかし1997年から98年にかけて、おそらくは阪神大震災を契機として逆転し、その結果として2002年の救急実績は2,068件となった。
しかし1機あたりの救急出動は年間平均30件で、後述するドクターヘリや欧米の救急ヘリコプターにくらべてきわめて少ない。任務が多岐にわたっていて救急専用機ではないためか、救急機としての出動体制が未整備のためか、あるいはヘリコプターの利用に不慣れのためか、さまざまな理由が考えられるが、救急機としてはもっと多くの出動があってしかるべきだろう。
(HEM-Net、2004.9.16)