<医療過疎の解消(4)>

救急隊員による医療行為

 

第1章 農山村地域の救急医療問題

<承前>

7 救急隊員による医療行為

 救急治療の着手を早めるためには、現場に駆けつける救急隊員にも救急医療処置を認めるべきではないかという考え方が出てきた。

 しかし法規の上では、医師法第17条に「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定められている。したがって、医師ならぬ救急隊員は基本的に医業、すなわち医療処置をおこなうことができない。ただし緊急時には「医師の具体的な指示の下に」以下の3行為が可能となっている。

 とはいえ、救急現場から医師と連絡をつけたり、患者の容態を説明したり、それを医師が電話や無線で聞いただけで判断するなど、このようなやり方は手間と時間がかかって実際の緊急時にはそぐわないという論議もある。そこで消防庁と厚生労働省は2002年4月以来「救急救命士の業務のあり方に関する検討会」を重ね、救急救命士に対する普段からの医師の指導、教育体制の充実強化をはかることを前提に、次表のような提言を行ない、順次実行に移して行くこととなった。

 

表1-3 救急救命士の救急処置に関する提言

提 言

救急処置の内容

医師の指示が不要となる時期

1

除細動は迅速性が強く求められるため、従来の携帯電話等によった医師の具体的指示を不要とする。

2003年4月

2

患者の気管に、直接、管を挿入する気管挿管による気道確保を認める。

2004年7月

3

心拍の再開に関する薬剤(エピネフリン)の投与について検証を行い、結論を得る。

2006年春
 [出所]最先端レポート、総務省、2003年12月

 

 現状は、半年間(800〜1,000時間)の専門的な教育訓練を受けて「救急救命士」の資格を得たものであれば、一定の医療的応急処置、正式には「救急救命処置」を実施できるようになりつつある。具体的には表1-3の通りで、心臓停止の患者には除細動器で電気的なショックを与えて拍動の再開を促す除細動処置が2003年4月から医師の具体的な指示がなくても実施可能となり、呼吸に必要な気道確保のための気管挿管も2004年7月を目途に実施可能となる予定である。

 このほか投薬に関しては2006年春から、心拍再開のための刺激剤「エピネフリン」の注射が認められることになっている。

 このような医療上の規制緩和は、まだ始まったばかりで、ごく一部の結果しか判明していないが、「消防白書」2003年版によれば、2003年4月から医師の指示を待たずに「除細動」処置が可能となったことから、2003年4〜9月の半年間、東京23区と政令市で心肺停止患者9,835人に1,153件の除細動処置をしたところ、そのうちの36.9%に当たる426件で心拍再開があった。これは昨年同期比で4.7ポイント向上したことを意味し、救急救命士による除細動処置が有効であることを示している。

 

8 救急救命士の不足

 救急救命士による医療的応急処置は、しかし、前節でも見たように、ごく狭い範囲に限定されている。加えて救急救命士そのものが少ない。

 2003年4月1日現在、消防機関に所属する救急隊員は全国で総数68,969人であった。そのうち救急救命士の資格を有するものは13,701人で19.9%、すなわち2割である。

 この人びとが5,574台の救急車に乗って救急業務にあたっているが、現状は出場する救急車の約7割に救急救命士が同乗しているだけで、必ずしも救急車のすべてが万全の態勢をととのえているわけではない。

 したがって、今後いっそうの充足が急がれると共に、新たな医療的処置を可能にするための質的な向上も望まれている。たとえば上述の心肺停止患者を治療する「エピネフリン」の投薬に際しては、医師ならばほかに2種類の薬剤を併せて投与することが多い。これで、治療効果はさらに高くなるが、そこまで救急救命士に認めることは「患者の状態によって投与手順が複雑になり、指示を出す医師も救急救命士も混乱しかねない」(厚生労働省と総務省による検討会、2003年12月26日)として、3剤投与の解禁は今後の検討課題とされた。 

9 メディカル・コントロール

 前節のように、救急患者の救命率を高めるために医師以外の救急救命士や看護師などが医療的処置をおこなえるようにするため、近年「メデイカル・コントロール」(MC)という考え方が出てきた。これは「救急現場から医療機関へ搬送されるまでの間、医師以外の者が医療行為を実施する場合、当該医行為を医師が指示または指導・助言および検証して、それらの医行為の質を保障すること」とされる。

 具体的には直接的MCと間接的MCに分けられる。直接的MCは、救急隊員の現場活動に際し、医師が対面しながら、または電話回線や無線などを通じて直接的に指示・指導・助言をおこなう。間接的MCは、事前に教育訓練をおこない、研修を重ね、救急活動の事後には具体的な症例について処置の適否を検討することをいう。

 しかし、こうした体制をつくりあげるには、教育訓練に長い年月を要し、救急現場と医師との間をつなぐ通信インフラの構築に費用がかかる。したがって一朝一夕に実現できるようなものではない。

 ちなみに、アメリカでは長年月をかけて、こうしたメディカル・コントロール体制を構築してきた。これにより救急現場にはナースやパラメディックだけが出動し、医師はほとんど出て行かないが、それでも医師の出動に近い初期治療が実現している。

 一方、欧州では、ドイツ、フランス、スイスなど医師が現場に出ることが多い。したがってメディカル・コントロールも、アメリカほど重視されてはいない。

 こうした世界の先進事例に対して、日本の現状は救急現場に医師が出て行く例はほとんどなく、しかもメディカル・コントロールも確立していない。日本の救急医療の現状が世界水準にくらべて20〜30年遅れといわれるゆえんである。

 とりわけ農山村地域の医療を考えるとき、医療施設が少なく、医師が不足し、救急機関も手薄という現状はきわめて深刻というべきであろう。

【参考文献】

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