<医療過疎の解消(3)>

救急医療の基本要件

 

第1章 農山村地域の救急医療問題

<承前>

4 救急医療の基本要件

 わが国農山村地域の医療体制は、前節までのような状況にあるが、ここで改めて、救急医療の基本的な要件を考えて見たい。

 人が急病、怪我、火傷などの緊急事態におちいった場合、一刻も早く処置をしなければならないことはいうまでもない。この「一刻も早く」とはどの程度のことをいうのだろうか。下の図は、それを示したもので、「カーラーの救命曲線」と呼ばれる。心臓停止、呼吸停止、多量出血など、緊急事態の発生から応急処置がおこなわれるまでの時間と死亡率の関係は、およそここに示すとおりである。

 たとえば心臓停止では3分間放置されると死亡率はほぼ50%、すなわち半数の人が命をなくす。呼吸停止では10分間で死亡率が約50%になり、交通事故などの多量出血では30分で半数の人が死亡する。

 このことは、緊急事態が重大であるほど早く適切な処置をしなければならず、時間と共に死亡者が増加することを意味する。言い換えれば、発症から治療着手までの時間が最大の問題となる。

 

図1-1 緊急事態の時間経過と死亡率(Dr.Cara,1981)

■ 心臓停止後約3分で、死亡率50%
■ 呼吸停止後約10分で、死亡率50%
■ 多量出血30分で、死亡率50%

5 救急車による対応

 前節のような緊急事態に対応するために、わが国では主として救急車が使われる。

 救急車は2003年4月1日現在、全国の消防機関によって5,574台が運用されていた。これらの救急車が「119番」の緊急電話に応じて出場した件数は、総務省消防庁の集計によると、2002年中の総計が456万件、搬送患者数は433万人であった。これは1日平均約12,500件にあたり、国民の29人に1人が救急搬送を受けたことになる。

 なお救急車で搬送された患者のうち、死亡、重症、中等症の割合は48.6%、入院加療を必要としない軽症その他の割合は51.4%であった。特に大都市では軽症者が57.5%で、その他の地域より多くなっている。ちょっとした病気や怪我でも救急車を呼ぶ例が多いことを意味しており、この傾向は近年徐々に増えている。

 また、消防庁によれば、救急車の到着までの時間が2002年の全国平均で約6.3分。患者を医療機関に収容するまでの所要時間が平均28.8分であった。

 しかし、この統計は全国の平均である。したがって、この中には東京を初めとする大都市の数値も含まれるから、今ここで問題としている農村地域に絞れば、発症から治療着手までの時間は30分以上、1時間程度になるものと思われる。ちなみに医療機関到着までの時間が30分以上かかった事例は157万件で、全体の35.9%を占める。このうち1時間以上は158千件で全体の3.6%になる。

 さらに病院到着から医師による治療着手までには、診断や検査などに多少の時間がかかる。患者の症状は搬送中も刻々に救急車内から病院へ伝えられることになっているが、まだ充分とはいえず、このあたりの時間短縮も今後の課題である。

6 治療着手までの時間

 緊急事態におちいった人を救うための最大の課題は、前項で述べたように、発症から治療着手までの時間である。救命効果を高めるためには、この時間を必要最小限に短縮しなければならない。

 上述のように、救急車は平均6分余りで救急現場に到着する。しかし、そこで直ちに救急治療が始まるわけではない。救急車には医師が乗ってはいないからである。

 とすれば搬送患者の症状によっては、救急車でも手遅れとなることが考えられる。たとえば前節で3分間放置されただけで半数が死亡するとされた心肺停止患者は、2002年の搬送実績が91,691人だった。このうち3分以内に治療が受けられた患者はどのくらいだっただろうか。統計的には、心肺停止患者91,691人中、1か月後の生存者は2,357人で5.8%にとどまっている。すなわち約95%の人が死亡しているのである。

【参考文献】

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