<医療過疎の解消(2)>

農山村地域の救急医療

 

第1章 農山村地域の救急医療問題

 

1 農山村地域の医療充実度

 農山村地域は一般的に救急体制が不充分であり、同時に高度医療機関から遠隔の地にある。したがって医療体制が不充分であり、医師が不足しているため、住民の病気や怪我などに際しては必ずしも充分な治療を受けることができない。

 その現状は、全国的にどうなっているだろうか。『地域医療白書』(梶井英治教授、自治医科大学、2002年3月31日)によれば、医療設備の充実度について調査したところ、「医療設備が充実している」または「どちらかと言えば充実している」と答えた自治体は、回答のあった全国2,936のうち1,505の自治体であった。51.3%である。

 すなわち、全国のほぼ半分の地域が不充分な医療設備しか有しないということになる。この状況を都道府県別に見ると、下表の通りである。

 

表1-1 医療設備の充実度

上位10府県

下位10県

都道府県名

割合(%)

都道府県名

割合(%)

兵庫県

71

神奈川県

45

佐賀県

67

徳島県

44

大阪府

67

島根県

43

石川県

65

大分県

42

宮崎県

63

三重県

42

滋賀県

62

千葉草

40

岩手県

60

埼玉県

39

長野県

59

福烏県

39

長崎県

57

宮城県

37

福岡県

57

茨城県

35

[注]「医療設備が充実している」に「はい」または「どちらかと言えば、はい」と回答した割合(%)

[資料]自治医科大学「へき地医療の現状と課題」、2002年

 

 この表によると、医療設備が充実、またはどちらかと言えば充実していると答えた自治体の割合は、兵庫県が最も高く、次いで佐賀県、大阪府であった。逆に最も低いのは茨城県で、その上が宮城県、福島県、埼玉県となっている。

 そこで、本報告書の主題である救急医療に目を向けると、「満足した救急医療を受けている」「どちらかといえば満足」と答えた自治体は、回答のあった全国2,938のうち1,517であった。51.6%である。やはり、ほぼ半分の地域が満足していないことになる。

 これは上述の医療設備の充実度と同じように見えるが、「どちらかと言えば」を除くと、医療設備が充実と答えた自治体は373(12.7%)だったのに対し、救急医療に満足と答えたところは262(8.9%)であった。医療設備が不充分であることに加えて、救急体制はさらに不満足な状態にあることが察せられる。

 この救急医療の状況を都道府県別に見ると表1-2の通りである。

 

 表1-2 救急医療の満足度 

上位10都府県

下位10県

都道府県名

割合(%)

都道府県名

割合(%)

東京都

73

宮崎県

44

長野県

68

栃木県

44

愛知県

66

鹿児島県

44

神奈川県

62

埼玉県

43

佐賀県

62

宮城県

43

山梨県

61

茨城県

42

静岡県

61

福島県

41

富山県

60

石川県

41

大阪府

60

犬分県

35

滋賀県

60

徳島県

33

[注]「満足した初期救急医療を受けている」に「はい」または「どちらかと言えばはい」と回答した割合(%)

[資料]自治医科大学「へき地医療の現状と課題」、2002年

 

 この表によると、満足している自治体の割合は、東京都が最も高く、次いで長野県、愛知県、神奈川県となっている。逆に低い方は徳島県が3分の1しかなく、その上に大分県、石川県、福島県がある。

2 農山村地域の救急医療

 前節のような医療の充実度をもう少し具体的に見てみよう。『地域医療白書』によると、全国の公的医療機関が保有する設備、たとえば心電計、X線撮影装置、超音波断層装置、挿管セットなどは8割以上の病院や診療所が備えている。

 設備の内容は概して良いように見える。しかし救急関連の設備となると非常に少ない。たとえば救急蘇生具セットは医療機関の35%にしかなく、蘇生を必要とする患者が運ばれてきても対応できない診療所も多い。さらに人工呼吸器を保有するのは8%であり、心細動除去装置は4%以下に過ぎない。

 加えて、救急治療の経験を有する医師もきわめて少ない。仮に医療器具があっても、医師の能力が伴わなければ使えないことになる。そのうえ医師の質的な問題ばかりでなく、人数すなわち量的な問題も大きい。農山村地域の医師の不足はわが国の長年の課題であり、今なお解消されていない。

 このことから全国の公的医療機関に勤務する医師に、自分の仕事に対する満足度について質問すると、医療過疎といわれるような地域に勤務する医師ほど満足度が低い。過疎地の医師はさまざまな病気に対応しなければならず、一人ひとりにかかる責任が大きくなり負担となるからであろう。

 具体的に初期救急治療への対応について、自らの満足度をを訊いたところ、満足していると答えた医師は52〜55%であった。半数近くが不満足のままで終わっているわけだが、救急医療であるだけに、患者の立場からすれば、いっそう大きな問題といえよう。

3 搬送手段の不足

 農山村地域の救急医療に関しては、医療機関や医師の不足ばかりでなく、搬送手段も不足している。鈴川正之教授(自治医科大学救急医学教室)の調査によると、全国農山村地域の診療所に搬送されてくる救急患者は必ずしも救急車ばかりではなかった。

 これは1995年におこなわれた調査で、全国の診療所460か所からの複数回答だが、救急車を挙げたところは357か所、自家用車を挙げたところは270か所であった。

 このことから460か所のうち救急車の357か所を除く残り103か所は救急車が来ていない。救急車以外の搬送手段が使われているのである。また357か所は救急車だけか、自家用車も来ていることになる。このように8割以上の患者が自家用車でくるところは10%、半分以上が自家用車に頼っているところは29%であった。

 こうして見ると、救急車といえども全国津々浦々に配備されているわけではない。また救急現場と救急車の配備拠点が離れていれば、救急車の到着までに時間がかかる。そのため、自家用車に患者をのせて走る方が早いといったことであろう。いずれにせよ農山村の医療過疎といわれる地域は、救急車の配備も充分とはいえない。つまり医療設備ばかりでなく、救急体制にも問題がある。

【参考文献】

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