<調査報告書>

ヘリコプターと救急車の違い

 

第5章 メリーランド州警察航空隊

(承前)

7 ヘリコプター救急の成果

 以上のような救急体制の下で、実際にヘリコプターはどのような成果をあげているのだろうか。われわれは、ボルティモア郊外マーティン空港の一角にある警察航空隊の一室で、ウォルター・カー警部(パラメディックの資格を持つ)のレクチャーを受けた。主題は「メリーランド州におけるヘリコプターと救急車搬送の死亡率の差異」である。

7-1 対象と重症度

 この検証の対象となったのは、1988年1月から95年7月までの7年半の間にショック・トラウマ・センターへ搬送された外傷患者23,002人。このうち11,379人は救急車搬送、11,623人はヘリコプター搬送で、ほぼ半分ずつだった。

 これらの人びとを、性別、年齢別に見たのが表5-5である。性別では、7割以上が男性である。また年齢別には7割以上が40歳以下であった。

 

表5-5 搬送患者の年齢と性別

統計事項

人数

構成比(%)

年齢層

20歳以下

4,084

17.7

21〜39歳

12,340

54

40歳以上

6,441

28.2

不明

137

0.1

合 計

23,002

100

性別

6,339

27.6

16,663

72.4

合 計

23,002

100

 下の表5-6は負傷の原因を示す。全体の半分以上が交通事故による負傷である。また銃撃、打撲、刺傷などの攻撃による負傷が2割以上を占める。しかし救急車で搬送されたグループとヘリコプターで搬送されたグループとの間では、負傷の種類が大きく異なり、この表に見られるように地上搬送グループは銃撃や刃物などの攻撃による受傷の割合が3割を超える。一方、航空搬送グループは交通事故が多く、7割に近い。 

表5-6 航空搬送グループと地上搬送グループの負傷の差異

負傷の種類

航空搬送群

地上搬送群

合   計

人数

構成比

人数

構成比

人数

構成比

打撲

385

3.30%

1,162

10.20%

1,547

6.70%

銃撃

586

5.00%

2,005

17.60%

2,591

11.30%

刃物刺傷

252

2.20%

699

6.10%

951

4.10%

交通事故

7,836

67.40%

5,284

46.40%

13,120

57.00%

その他

2,564

22.10%

2,229

19.60%

4,793

20.80%

合  計

11,623

100.00%

11,379

100.00%

23,002

100.00%

 次に、これらの患者の解剖学的重症度指標(ISS:Injury Severity Score)を判定し、5段階ごとの指標によって階層分けをする。その結果は表5-7のとおりだが、指標の数字が大きいほど重症である。このISSスコアは救急現場で決められるようなものではない。入院後24時間ほど経過して、個々の負傷の内容が明確になったのちに判定したものである。 

表5-7 ISSと死亡率

ISS指標

航空搬送群

地上搬送群

合   計

生存数

死亡数

死亡率

生存数

死亡数

死亡率

生存数

死亡数

死亡率

0〜5

3,587

3

0.08

4,148

1

0.02

7,735

4

0.05

6〜10

2,441

7

0.29

2,548

13

0.51

4,989

20

0.4

11〜15

1,341

9

0.67

1,187

9

0.75

2,528

18

0.71

16〜20

1,203

52

4.14

1,188

44

3.57

2,391

96

3.86

21〜25

762

143

15.8

602

77

11.34

1,364

220

13.89

26〜30

625

213

25.42

543

178

24.69

1,168

391

25.08

31〜35

259

81

23.82

173

58

25.11

432

139

24.34

36〜40

166

48

22.43

106

38

26.39

272

86

24.02

41〜45

188

92

32.86

100

67

40.12

288

159

35.57

46〜50

80

75

48.39

31

36

53.73

111

111

50

51〜55

11

39

78

6

55

90.16

17

94

84.69

56〜60

27

50

64.94

20

36

64.29

47

86

64.66

61〜65

0

0

0

0

0

0

0

0

0

66〜70

13

23

63.89

2

26

92.86

15

49

76.56

71〜75

34

51

60

22

65

74.71

56

116

67.44

合計

10,737

886

7.62

10,676

703

6.18

21,413

1589

6.91

7-2 分析

 表5-7を図示すると下の図5-1のようになる。

 この図からも分かるように、ISSが20以下では搬送手段の違いによって死亡率が変わるようなことはない。次にISS21〜25、26〜30、56〜60の3つの範囲では、航空よりも地上の方が死亡率はやや低い。しかし、ISS31以上では、ISS56〜60の例外を除いて、ヘリコプター搬送の方が死亡率は低くなる。偶然低くなったのではなくて、統計的な意味がある。

 上の図と表を整理し直すと、下の表5-8のとおりとなる。すなわち、ISSが31未満のグループでは、地上搬送グループの死亡率が3.1%、航空搬送グループが4.1%で、地上の方が1%低い。けれどもISS31を超えると、航空グループの死亡率は37.1%、地上グループは45.3%で、航空の方が助かる割合が多くなる。 

表5-8 ISS31を境とする死亡率の差異

    

ISS31未満

ISS31以上

航空搬送群

患者数

10,386人

1,237人

死亡数

427人

459人

死亡率

4.10%

37.10%

地上搬送群

患者数

10,538人

841人

死亡数

322人

381人

死亡率

3.10%

45.30%

 重症患者を救急現場から病院まで迅速に搬送すれば死亡率が下がることは昔から知られていた。とりわけ航空搬送の利点は、多くの専門家が指摘している。しかし戦場で有効だからといって、それを直ちに国内で日常的に実施することは、他の搬送手段が整っているだけにむずかしい。

 しかし今や、そうした経験的な見方が、上の結果によって統計的に証明された。重症患者の場合は、ヘリコプターで運ぶか救急車で運ぶかによって、その転帰に違いが生じるのである。ヘリコプターに経験豊かな医療スタッフが乗りこみ、受け入れ病院との間で機上から無線連絡を取りながら、高速で患者を搬送することは、昔ながらの地上搬送手段に比べて大きな利点がある。遠いへき地で大けがをしても、ヘリコプターを使えば、医療機関のそばで怪我をした人と同程度の生存の機会が得られるのだ。

 すなわちメリーランド州のようなヘリコプター救急体制を取っていれば、州内の住民がいつどこで怪我や病気のために倒れても、誰もが同じように有効かつ高水準の救急処置を受けることができる。これが、ヘリコプター救急が継続できることの理論的根拠にほかならない。

 繰り返しになるが、ヘリコプターで搬送された患者は、とりわけ症状の重かった者については、救急車搬送にくらべて明らかに死亡率が低い。具体的にISS31以上の患者については、ヘリコプター搬送の方が生き残る可能性が高いのである。

 では、何故ヘリコプターによって生き残る可能性が高くなり、死亡率が下るのだろうか。その理由は、次のようなことであろう。

  1. 時間的要素――迅速な対応と搬送
  2. 現場治療の質――ヘリコプターで駆けつけるパラメディックのすぐれた技能
  3. 搬送先の医療施設――患者の容態に応じて高水準の治療ができる医療施設への搬送が可能

 メリーランド州警察のパラメディック、カー警部は救急医療サービス・システム研究所の集積したデータにもとづいて、ヘリコプター利用の結果がどのような転帰をもたらしたかを、上のように検証した。検証の結果は、重篤の外傷患者を、適格のスタッフによって航空搬送すれば死亡率が下がることが明らかになった。しかし、同時にまた、患者を受け入れる側の病院施設も高水準の治療が可能でなければならないという結論である。

[参考文献] SGT. Walter A. Kerr, Baltimore Section Supervisor, Maryland State Police Aviation Division & Department of Emergency Health Services, University of Maryland, "Difference in Mortality Rates among Trauma Patients transported by Helicopter and Ambulance in Maryland", Prehospital and Disaster Medicine, 1999.

(HEM-Net、2005.12.28)

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