<調査報告書>

救急出動が最優先

 

第5章 メリーランド州警察航空隊

(承前)

5 出動の判断

5-1 電話口で出動判断

 ヘリコプターの出動が必要か否かの判断は、911番の緊急電話を受けたときに、事故や災害の状況、あるいは患者の容態を聞いて、その場でおこなうのが原則である。

 「メリーランド州救急医療プロトコール」には、救急患者の搬送手段として航空、地上、水上などを考え、患者の呼吸、心臓、気道などの様子を見ながら、最寄りのトラウマ・センターに10〜15分以内に到着できるか否かによって、手段を選ぶよう定められている。

 とりわけヘリコプターの使用に関しては、患者の容態に適した救命救急センターへ早急に搬送することで危険な状態を脱し得るようなときに使うと定められている。その一方で、救急患者が30分以内に容態に適した救命センターに到着できるような場合は、ヘリコプター搬送の意義はさほど大きくないとも書いてある。

 いずれにせよ、911の電話受付の窓口に医師やパラメディックが存在するわけではない。むろん所要の訓練を受けた受付係がすわっているが、プロトコールだけでは判断の間違いをすることもある。しかし警察航空隊としては、間違いと思われるときでも、要請を受けたものは全て出動する。そのうえで、あとから医師をまじえて検証し、同じような繰り返しをできるだけ減らすように指導する。このことによってメディカル・コントロール教育が続くことになり、そのための非常勤の顧問医がメリーランド州警察に存在する。

 なお、出動の判断は、余り厳密にすぎて、真に必要な患者に対してヘリコプターが出なかったりすることのないよう、ある程度の許容範囲をもっている。

 以上を要するに、基本的な重要事項は「時間」である。生命に危険のせまっている患者は、10〜15分以内にトラウマ・センターへ運びこまなければならない。そのため、救急車では間に合わないようなときにヘリコプターが出動するのである。

5-2 自動出動の原則

 救急プロトコールには「生命の危険がせまっていない患者でも、地上搬送で30分以上かかるようなときはヘリコプターの出動を考慮する」と定めてある。具体的には、ヘリコプター拠点から遠い一部地域について「自動出動の原則」を設けている。救急車では長時間を要することが分かっている地域を対象とするもので、そこの住民から911番の電話を受けたときは、電話と同時に自動的にヘリコプターを発進させる。

 そのうえで救急や警察などの地上班が早く現場に到着して患者の容態が判明し、ヘリコプターの必要がないということになれば途中から引返す。そのための飛行時間はせいぜい10分程度であり、納税者にかかる負担も決して大きなものではないと考えている。

 逆に、真にヘリコプターが必要ということになれば、患者にとって貴重な時間を失わずにすむことになる。遠隔地の患者にとっては、ヘリコプターによって救命センターのすぐそばで発病したのと同じような生存のチャンスが与えられることになる。

5-3 時間と症状

 とはいえ、「時間」とともに「症状」もまた重要な要素である。救急業務の成功のためには、この両方の課題をバランスよく克服してゆかねばならない。

 思うに、日本では「時間」よりも患者の「症状」が重視されることの方が多いのではないだろうか。まず地上の救急隊員が現場に行って症状もしくは容態を確認する。それからヘリコプターを呼ぶので、救急事案の覚知からヘリコプターの出動要請まで、平成16年度「厚生労働科学研究」によれば、全国のドクターヘリの平均が14.2分であった。このあたりを考え直す必要があろう。

6 出動実績

6-1 救急出動

 2004年の救急出動では、5,428人の患者が州警察ヘリコプターの救護を受けた。そのうち現場出動による救護は5,144人(95%)、病院間搬送は284人(5%)であった。また現場救急の55%余、2,844人が交通事故による負傷者で、そのうち300人が歩行者である。

 さらに病院間搬送のうち39人は未熟児であった。

6-2 過去の出動経過

 これまでの年ごとの出動実績は次表5-2のとおりである。 

表5-2 これまでの出動実績

出動回数

救護患者数

1997

10,158

4,740

1998

9.632

4,860

1999

8,794

4,928

2000

7,920

4,983

2001

8,632

5,370

2002

8,317

5,351

2003

8,155

6,324
[資料]メリーランド州警察

 上表で注目すべき点は、全体の出動件数が年ごとに減っていながら、救護された患者数は増えていることであろう。

6-3 救急優先

 前項の出動実績のうち、2002年と2003年の出動内容を見ると表5-3のとおりとなる。 

表5-3 出動業務の構成比

   

2003年実績

2002年実績

出動件数

構成比

出動件数

構成比

救急業務

6,026

69.2%

5,971

71.8%

警察業務

1,387

15.9%

1,244

15.0%

捜索救助

404

4.6%

408

4.9%

訓練・整備

894

10.3%

694

8.3%

合  計

8,711

100.0%

8,317

100.0%
[資料]メリーランド州警察

 上の表を見ると、両年ともに救急業務が約7割である。また訓練と整備のための飛行を除けば、救急、警察、救助のために2003年は8,115回、2002年は7,623回の出動をしたことになり、その中で救急出動の比率はさらに上がって8割に近くなる。すなわち警察航空でありながら、救急業務を最優先に実行していることがわかる。

6-4 拠点ごとの出動実績

 メリーランド州警察は、8ヵ所の拠点ごとに年間どのくらいの出動をしているだろうか。上に見たように2003年実績は総出動件数8,711件、うち救急出動は6,026件だったが、拠点ごとの内訳は表5-4のとおりである。

表5-4 拠点ごとの出動件数と飛行時間 

   

出動件数

うち救急出動

飛行時間

ボルティモア

1,558

1,154

724

アンドリュースAFB(含ワシントンDC)

1,539

1,189

691

フレデリック

1,227

840

718

サリスベリ

596

347

385

カンバーランド

545

253

345

セントゥレビル

1,040

717

620

サザンMD

740

445

494

ノーウッド

1,466

1,081

670

合  計

8,711

6,026

4,647
[資料]メリーランド州警察

 出動件数の多い拠点は、ボルティモア、ワシントンDCをも担当地域に含むアンドリュース空軍基地、ノーウッドの順となるが、救急出動だけを見ると、アンドリュース、ボルティモア、ノーウッドの順になる。平均すると、1ヵ所あたりの救急出動は753回である。

 飛行時間は8ヵ所で4,647時間。1ヵ所平均580時間になる。また出動1件あたりの平均は30分余である。 

(HEM-Net、2005.12.10)

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