<調査報告書>

警察によるヘリコプター救急

 

第5章 メリーランド州警察航空隊

1 公的機関によるヘリコプター救急

 メリーランド州のヘリコプター救急は、州警察によっておこなわれている。ワシントンでカウリー博士の墓参をすませた翌日、ボルティモア近郊のマーティン空港へ警察航空隊を訪ねた。

 ちなみに、警察や消防などの公的機関が日常的な救急業務に当たっている例は、世界的に見ても余り多くない。たとえば今回の調査で訪ねたAAMS(米航空医療学会)が2003年12月に出した「2003 Directory Air Medical Programs」によると、米国内で救急業務に当たっている団体や企業など250以上の中で、公的機関はメリーランド州警察を含めて、おそらく次の7ヵ所だけであろう。

2 メリーランド州警察航空隊の基本体制

2-1 任 務

 メリーランド州警察航空隊の基本任務は、州内ならびに近隣地域において、救急業務、警察業務、捜索救難その他のサービスを1日24時間提供することにより、住民の生活を保護し、質の向上をもたらすことにある。

2-2 現有航空機

 メリーランド州警察は上述のとおり、州営マーティン空港に本拠を置き、ヘリコプター12機と飛行機2機を保有する。飛行機は同空港に常駐し、ヘリコプターは州内8ヵ所に分散配置されている。本拠地には大きな格納庫があって、飛行機やヘリコプターを入れると同時に、整備改修をおこなう。われわれが訪ねたときも、2〜3機のヘリコプターが整備点検中であった。

 保有機は次のとおりである。

2-3 人員

 警察航空隊に所属する人員は総数144人。内訳は次のとおりである。ほかに非常勤の顧問医師が1人ついている。

2-4 費用

 メリーランド州警察航空隊の経費は次のとおりである。

 メリーランド州では車のナンバープレート(tag)を取得する登録料として1台につき毎年60ドルを納入する。うち15ドルが救急資金として救命救急センター、州警察、救急車(消防)、パラメディック訓練のために配分される。そのうち3.44ドルが警察航空隊に配分される。メリーランド州の登録車両は約520万台。よって3.44ドル×520万台=1,780万ドルになる。これに一般予算を加えて全経費がまかなわれる。

 なお、病院を拠点とする民間ヘリコプター救急は医療保険金によってまかなわれるが、警察は一切受け取っていない。全て上述のような公的費用でまかなわれている。

3 ヘリコプターの配備

 ヘリコプターの救急拠点はメリーランド州内8ヵ所。うち1ヵ所はアンドリュース空軍基地にあって、隣接するワシントン市内も担当する。ほかに、これら各地の運航を統括する運航管理通信センターがボルティモア市内にある。

 メリーランド州は23のカウンティ(郡)に分かれ、それぞれに緊急指令センターがあり、一般住民から救急、消防、警察に関する3種類の要望を同じ電話番号911番で受ける。その電話からヘリコプターが必要と判断すれば、警察の運航管理通信センターに連絡する。同センターはカウンティ23ヵ所からの要請を一手に受けて、8ヵ所のヘリコプターに出動指令を発する。

 この通信センターに2004年中に入ってきた電話は60,514件、無線は4,311件、合わせて64,825件であった。そのうちヘリコプターの救急出動要請は6,969件であった。

 これらの要請に対して、最寄りのヘリコプターが出動していて使えないときは、隣接拠点のヘリコプターを飛ばす。

 救急拠点の位置は上図のとおり、8ヵ所にある。このメリーランド州の地図の上の横辺は300km、右の長い縦の辺は約150km、右下の横の辺は60km。また面積は25,000平方キロで、日本の面積37.8万平方キロの15分の1。すなわち日本に当てはめると120ヵ所の配備に相当する。あるいは北海道の面積のちょうど30%である。ということは北海道に25機の救急ヘリコプターを配備したようなことになる。人口は北海道が565万人、メリーランド州が530万人でほとんど変らない。いかに濃密な配備であるかが分かる。

 また、メリーランド州の配備密度はスイスと同じでもある。スイスは山岳国のために高い密度になっているが、メリーランド州は警察業務を兼ねているためであろう。これで州内どこでも、ヘリコプターの到着までに20分以上かかるところはない。

 図中、番号1が州内最大の都市ボルティモア。われわれの訪ねた警察航空隊、ショック・トラウマ・センター、運航指令センターなどは全てここに所在する。

 番号2はアンドリュース空軍基地で、ここからワシントンDC、すなわち首都の救急をも担当する。出動件数は、ボルティモアとともに、それぞれ年間1,000件を超える。

4 出動基準

 メリーランド州警察の航空機はどのような場合に出動するのか。「住民の生命と財産の保護」を基本的な目的として、救急、救助、火災の場合の出動基準は下記のとおりという。もっとも、これは厳密な基準として設定されているわけではない。彼らの基準は、災害状況そのものよりも、常に「時間」である。一刻も早く現場に到達することが何よりも重要としている。

 出動要請から離陸までの時間は最大6分と決められている。けれども、ほとんどの場合は4〜5分で離陸する。

 そこで、メリーランド州警察航空隊は救急、救助、火災に際して次のような場合にヘリコプターを飛ばす。無論このほかにも本来の警察業務がある。さらに、その延長線上で、いま最も重大な課題となっているのは、本土安全保障に関する責務(Homeland Security Responsibility)を如何に遂行するかという課題である。 

表5-1 ヘリコプターの出動基準または目的

救  急

救  助

火  災
  • 救命センターへの迅速なる到着
  • 患者に負担のかからない安楽搬送
  • 搬送時間の短縮
  • 高度救命医療の利用
  • 救急専門医の現場搬送
  • 地上からの接近不可能な場所での救助
  • 遭難者の捜索l
  • 夜間の地上救助活動に対し上空から照明
  • 上空からの消防指令
  • 高層ビル火災の際の屋上からの救助
  • 高層ビル火災に際し消防隊員と消防機器を屋上へ搬送
  • 遠隔地の火災現場へ消防隊員と器具を輸送
[資料]メリーランド州警察

(HEM-Net、2005.12.2)

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