<調査報告書>

ヘリコプター救急で死亡率低下

 

第3章 米ヘリコプター救急体制の分析

(承 前)

3 事故死の相関分析

 ヘリコプター救急は質の高いプレホスピタル・ケアを提供する上で、きわめて重要な手段である。とりわけ農村地帯では顕著な効果をあげる。アメリカの場合、たとえば2001年の統計によると、農山村や砂漠、山岳地などのへき地を走っていた車は、全米走行距離のうち約39%であった。しかるに死亡事故の61%はこうしたへき地の道路で発生している。言い換えれば、同じような事故であっても、救急体制のととのった都市部では、死亡する人の割合が少ないということになる。

 さらに事故現場で死亡した人――すなわち救急搬送を受けられず、現場の路上で死ぬ人は、農山村が都市部の2倍以上に達する。

 同じようなことは交通事故に限らず、脳出血や心臓病など治療着手を急がなければならない急病人についても同様であろう。これはへき地の救急搬送体制や医療施設が不充分だからである。

 本章末に掲げる表3-2は米ハイウェイ安全局(NHTSA:National Highway Traffic Safety Administration)の集計した死亡事故分析(FARS:Fatality Analysis Reporting System)にもとづく州ごとの交通事故死亡率である。

 この表にもとづいて、車の登録台数10万台あたりの事故死者数を、州ごとにプロットしたのが下の図3-4である。横軸は先の表3-1で見たように、各州の救急ヘリコプターの飛行10分以内の人口比(%)である。この図は、したがって、両者の相関関係を示すものとなる。 


図3-4 自動車10万台あたりの事故死者数と人口比との相関

 

 この相関図は、全体がバラついている。相関分析の結果も、図の右上に示すように相関係数R=-0.31に過ぎない。すなわち、横軸と縦軸の2種類の数値は相関の程度が弱い。言い換えれば、交通事故の死者と車の登録台数との間には、いくらか関係があるが、さほど強い関係はないということになる。

 ここで相関係数(R)の意味について再確認しておきたい。R=1.0またはR=-1.0で完全な相関があり、R=0で相関なしということになる。こうした相関係数(R)の評価の仕方は下記の通りである。

相関係数(R)

係数の評価

−1〜-0.7または0.7〜1

強い相関

-0.7〜-0.4または0.4〜0.7

かなりの相関

-0.4〜-0.2または0.2〜0.4

やや相関

-0.2〜0.2

ほとんど相関なし

4 人口および負傷者との相関

 図3-5は、救急ヘリコプターの飛行10分以内の人口比(%)に対し、表3-2の人口10万人あたりの事故死者数を州ごとにプロットしたものである。全体の形は、飛行10分以内に住む人の割合が多くなるにつれて、死者の割合が減っている。相関分析の結果もR=-0.51で、かなりの関係があるという結果になった。


図3-5 人口10万人あたりの事故死者数と人口比の相関

 

 最後に、交通事故の負傷者数に対する死者数を、飛行10分以内の人口比との関係から見てみよう。

 けが人のうちどのくらいの人が死ぬか。この問題は昔から多くの研究調査がなされてきた。とりわけ戦場における負傷兵の死亡の割合は、その救出や搬送にヘリコプターを使うことによって大きく下がることが明らかになっている。

 たとえば、アメリカ連邦航空局(FAA)が出している手引書『救急ヘリコプターの危機管理』(Risk Management for Air Ambulance Helicopter Operators、1989年)によれば、第2次大戦中、戦場で敵弾のために負傷した兵士は、治療を受けるまでに平均8時間待たねばならなかった。その結果、負傷兵の死亡率は約10%であった。朝鮮戦争ではヘリコプターが使われるようになり、負傷兵の待ち時間が3時間に減った。外傷治療の技術も向上し、死亡率は2.5%に減った。

 そしてベトナム戦争では、米軍負傷兵の9割がヘリコプターで搬送され、1〜2時間で治療が受けられるようになった。さらに野戦病院の設備や医薬品も良くなり、死亡率は1%に下がった。実は、こうした実績が、ヘリコプター救急を日常の救急手段として使うきっかけになったのであった。

 そこで交通事故の負傷者の死亡率を、救急ヘリコプターが駆けつける早さとの関係から見たのが図3-6である。表3-2の負傷者千人あたりの死者数を州ごとにプロットしてある。


図3-6 負傷千人あたりの死者と人口比との相関

 表3-2に示すように、全米50州のうち死者の割合が最も少ないのがニューヨーク州の6.0人、最も多いのがヴァーモント州の35.0人である。なお全米平均では千人あたりの死者は12.2人となる。ただし、この中にはロードアイランド州(5.6人/千人)とニューハンプシャー州(9.3人/千人)は含まない。この両州は統計の取り方が異なるので、除外してある。

 そこで上の図3-6を見ると、負傷者の死亡する割合は救急ヘリコプターの飛んでくる早さに応じて減っていることが明らかである。相関係数もR=-0.70で強い関係のあることを示している。

 すなわち、交通事故の犠牲者は、救急ヘリコプターの対応が早ければ早いほど少なくなるということができよう。

5 分析のまとめ

 以上に見てきた通り、救急ヘリコプターが事故の発生または覚知から15分以内に飛来可能な地域に住む人口比と、交通事故におけるさまざまな死亡率との相関関係をまとめると次の通りとなる。

  いうまでもないことだが、交通事故のけが人は一刻も早く救急治療を受ける必要がある。早ければ早いほど死者の数が減って、生存者が増え、予後が良くなり、社会復帰のできる人が増える。

 そのためには、ヘリコプター救急体制のいっそうの充実が必要である。上に見たように、救急ヘリコプターの拠点から飛行10分以内に住んでいる人口は全米で75%である。これに対してスイスでは全国土の100%近い範囲が、ヘリコプターで15分以内に到達可能な救急体制ができている。ドイツでも救急患者の84%が要請から15分以内にヘリコプター救急の治療を受けている。

 こうした欧州の救急体制にひけを取ってはならないというのが米国の考え方である。日本も当然、そうあるべきだろう。

表3-2 米国各州の交通事故による死亡率

統計年

死者

負傷者

交通事故による死者数

負傷者千人当り

運転者10万人当り

登録車10万台当り

人口10万人当り

AL

2001

994

42909

23.2

27.92

23.17

22.27

AK

2001

85

6543

13

18.01

13.82

13.39

AZ

2001

1048

73962

14.2

29.52

25.2

19.75

AR

2001

611

47003

13

31.14

32.28

22.7

CA

2001

3956

305907

12.9

18.29

13.52

11.47

CO

2001

736

49363

14.9

22.38

15.19

16.66

CT

2001

312

50347

6.2

11.77

10.51

9.11

DE

2001

136

9967

13.6

24.11

20.42

17.08

FL

2001

3011

234600

12.8

23.63

20.56

18.36

GA

2001

1615

132306

12.2

27.68

21.83

19.26

HI

2001

140

8620

16.2

17.77

15.73

11.43

ID

2001

259

14021

18.5

28.87

19

19.61

IL

2001

1414

124631

11.3

18.1

13.98

11.33

IN

2001

909

71537

12.7

22.08

15.8

14.87

IA

2000

445

35529

12.5

22.59

12.93

15.29

KS

2001

494

28828

17.1

26.4

20.73

18.33

KY

2001

845

52952

16

30.65

23.01

20.78

LA

2001

945

48746

19.4

35.1

26.07

21.36

ME

2000

192

16415

11.7

20.36

18.29

14.92

MD

1998

606

60051

10

19.12

16.52

12.28

MA

2002

459

56555

8.1

10.34

8.98

7.48

MI

2001

1328

112292

11.8

19.03

15.35

13.29

MN

2001

568

42223

13.5

19.18

12.07

11.42

MS

1996

811

27784

29.2

42.17

39.58

27.43

MO

2001

1098

73629

14.9

28.43

25.7

19.5

MT

2001

230

8982

25.6

33.67

21.7

25.43

NE

2001

246

26751

9.2

19.42

14.85

14.36

NV

2001

313

29287

10.7

22.03

23.86

14.86

NH

2001

142

15323

9.3

15.07

12.32

11.28

NJ

2001

747

118620

6.3

13.07

11.14

8.8

NM

2001

463

27536

16.8

37.58

31.78

25.31

NY

2001

1548

259143

6

14.05

15.01

8.14

NC

2001

1530

134238

11.4

26

24.41

18.69

ND

2001

105

4608

22.8

23.03

14.46

16.55

OH

2001

1378

138847

9.9

17.81

12.73

12.12

OK

2001

676

45275

14.9

31.12

20.13

19.54

OR

2001

488

26976

18.1

19.26

15.68

14.05

PA

2001

1530

117895

13

18.6

15.5

12.45

RI

2001

81

14536

5.6

12.27

10.31

7.65

SC

2001

1059

52350

20.2

37.16

33.1

26.06

SD

2001

171

7118

24

31.38

20.48

22.6

TN

2001

1307

76910

17

29.87

23.95

21.79

TX

2001

3724

340554

10.9

28.55

25.56

17.46

UT

2001

292

29699

9.8

19.52

16.3

12.87

VT

2001

92

2628

35

17.86

16.49

15.01

VA

2001

935

80187

11.7

19

14.99

13.01

WA

1996

712

83780

8.5

15.31

12.24

10.84

WV

2001

376

25797

14.6

28.55

25.41

20.87

WI

2001

763

58279

13.1

20.81

16.3

14.12

WY

2001

186

5759

32.3

50.13

31.31

37.62

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